君が眠っている姿をみていたら

 すやすや吐息がまるで静かな湖畔に立たずんだときのような感情を抱かせる。ねえ。いつまで寝てるの?
 そろそろ起きないと仕事に間に合わなくなってしまうよ。朝は短いし夜も短いのだから。君がそうして眠っている間にいろんなことが過ぎ去ってしまうよ。
 でもね。ずっと君と一緒に眠っていたい。
「この世は夢。下天の内を比ぶれば」
「そんなことを言うもんじゃないのよ。心臓の音が聞こえている限り眠ったりしないの。ねえ、旅に出たいな」
「旅? どこか遠くに?」
「うん」
「じゃあ、電車に乗ってどこまでも行こうよ。海を渡り虹の向こうに」
 ぎゅっと君が手を握りしめるのを感じる。
 ああ、そうか、いつの間にか眠っていたのは僕のほうだったんだ。手があったかいなんて忘れていたよ。眠っている君が起きていて、起きてるとおもてた僕の方が、ずっと眠っていたみたいなんだ。
 君の胸で抱きしめて僕を目覚めさせてくれないか。そう、そうやって、ね。