どろどろどろ

saikiman2005-03-04

 夢だと思った。この世が真夏のチョコレートのように溶けて行くのは、まるで悪夢のようだった。いや、やはり夢だった。
 君は溶ける訳はないじゃないと言うかも知れない。でもそれは本当に溶けてゆくようだった。僕は小さな白い部屋の中でイマジナリングの修行中だった。瞑想のためにアイパッドをつけて、長い長いインプリンティングマントラの中に漂っていた。それが見えた時には、全身に震えがきて立ち上がることができなかった。腰が抜けて失禁をしてしまった。
 太陽がいくつもはじけたようなまばゆい光だった。始まりが光で次に真っ白な長く時間が止まってしまったような瞬間があって、やがてうすぼんやりと見えてきたのは、教団宿舎の壁が剥がれてゆき、徐々に蕩けて行くのが見えた。じわりじわりとじわりじわりと。明るさから黒ずんだ溶解へと続いていた。
 カラスが飛んでいたように思う。
 生まれた街の、故郷の公園の、子供の頃によく遊んだブランコが、雲梯が、曲がる。
 カラスは急降下を描きながら落ちてゆき、都会のビルはロウソクのように崩れていった。
 今思えば子供の頃に見た、古い雑誌の中の「世界の終わり」の絵にそっくりだったのかも知れない。人々の顔もぐにゃりと歪んで赤茶けた筋肉が露出して、血が溢れていた。
 Have you seen the worlds end?
 君はほら、笑って、それは幻覚だって言うじゃない? でもね、あれは本当だったのか、嘘だったのか今でも実感はないんだ。嘘だって言われても、あの時に感じた鳥肌の立つこの肌は「ほんとうだ」と言い続けているんだ。ねえ、君は明日自分が蕩けてしまうと分かってたら、どうするんだい?
 大切な何かや人がどろどろどろどろと溶けてゆくんだ。
 どんな心地がするんだい?
 ぼくはおかしくなんてなっていないよ。だいじょうぶだよ。きっとだいじょうぶ。